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高齢者の『性』の生理学

4.高齢者の性の生理学

老化とは、生物学的には時間の経過とともに生物の個体に起こる変化を意味し、その中でも生物が死に至るまでの間に起こる機能低下やその過程を指しています。

「男らしさ」、「女らしさ」は、男性の精巣から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)、女性の卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)から形作られています。身も心も共にです。加齢と伴にこれら両ホルモンは低下し、男らしさ、女らしさが失われていきます。それに伴って性機能の衰えを男女とも45歳くらいから感じ始めます。7


このように「性成熟期」から「老年期」へ移行する間に「更年期」と呼ばれる時期があります。ホルモンバランスが安定している「性成熟期」から精巣や卵巣の機能が低下し、その機能低下に対し「もっと働け」という指令をだす「間脳-下垂体」からの刺激ホルモンの分泌が増加してきます。そこで脳と精巣や卵巣の間でホルモンの不協和音が生じてきます。自律神経系が乱れることになります。女性の場合、卵巣の機能の低下は4555歳の間に急激に襲い掛かり、更年期障害となって様々な不定愁訴を訴えますが、男性の場合は精巣の機能低下は緩徐に起きますので男性更年期は人様々で幅があるようです。この期間を更年期と呼び、以降自律神経中枢も落ち着いて老年期へと移り変わっていくのです。

この老年期に移行して老化していくことになります。卵巣や精巣の機能低下とともに、加齢によって様々な臓器や組織も衰えてきます。これを一般的に「老化現象」と呼んでいます。この老化現象に代表されるものに動脈硬化などで知られる血管の老化が挙げられます。これには悪玉コレステロールが原因物質となって血管をしなやかに保っている「弾性繊維」を破壊していきます。この動脈硬化をもたらす原因には、喫煙や暴飲暴食、運動不足、飲酒、肥満など多くの原因があり、動脈硬化によって糖尿病や高血圧症、痛風症や胃潰瘍に至るまで様々な疾患を発症する可能性を持ちます。加齢に様々な要因が老化というのに加速をかけて人様々となって表れてきます。

この血管壁の老化の始まりを自覚できるものに、男性では陰茎内の末梢血管に現れてきます。「朝立ち」といわれる早朝勃起現象の消失や勃起時の硬度の低下で自覚できます。女性では腟粘膜が萎縮、菲薄化し潤いがなくなり、平滑で伸展性を欠くようになってきます。このようになりますと帯下感や掻痒感を訴え、性交痛を訴えるようになります。萎縮性腟炎といわれるものです。男女共に性交時に感じる違和感は老化の始まりといえるのです。50歳周辺に現れてきます。

4-1.高齢男性の性生理

老化は「ハメマラ」から始まると、昔から俗説的にいわれてきました。ハメマラとは男性の老化の進行で、衰えが症状としてあらわれる部位のことを意味しており、平安時代からともいわれています。ちなみに『ハ』は歯(歯槽膿漏や歯肉炎、固いものが噛めなくなってきたことを)、『メ』は目(視力低下、細かい文字が読めなくなってきたことを)、『マラ』は梵語の“mara”から男性の生殖器官(ED:勃起障害や尿の切れの悪さ)を意味しているというものです。9


.加齢とともに精巣の機能が低下してきます。男性ホルモンであるテストステロン分泌も減少してきます。男らしさに翳りをみせ始めてきます。先ず、男性の勃起力の低下に気が付かれることも多いでしょう。特に顕著に表れるのが朝起きたときにみられる「早朝勃起」がなくなることで自覚されるのではないでしょうか。

この早朝勃起現象の消失や勃起力(硬さ)の低下は50歳周辺からみられ始めるようです。セックスの最中もときに途中で萎縮する中折れ現象にも遭遇することがあります。副性器の前立腺や精嚢腺も機能低下がみられ、産出される精液の量も減少していきます。若い時期の半分の量にまで減少していきます。また、射精時に感じていた「射精不可避感」や「射精切迫感」を感じることなく射精してしまうこともあるでしょう。射精時に得られるオーガスムも弱くなってきます。セックスに対する自信が持てなくなってしまうこともあるでしょう。精神的なストレスを伴い、体力の低下と相俟って性欲も少しずつ失われてきます。セックスレスなどへのネガティブの連鎖に追い込まれてしまいます。

この「性に対する情熱の消失」の他に、血管の衰えが高血圧などの心循環器系疾患、脂質代謝異常からくるものもあります。予備軍を含めますと2千万人にも及ぶと云われています「糖尿病」も患ってくる男性も多いようです。前立腺も加齢によって肥大していきます。前立腺肥大や前立腺がんも、ときには男性に襲い掛かることもあります。このような老いとともに様々な多臓器疾患は、性機能を著しく傷つけていきます。まさに枯れた老いを感じ取っていくことになります。

男性は陰茎の「勃起力」というものを通して老いを感じてくるようです。50歳周辺から感じるようになってきますが、個人差は大きいようです。しかし多くの男性において性欲は強く残されたままです。セックスをしていても硬度が少しずつ失われていることに気がつきます。他のことに気が取られてしまいますと萎えてしまうこともありえます。また、オーガスムを感じる射精の時も精液量が少なくなっていますし、射精時に起きる精液が後部尿道口に排出される現象(エミッション:極致感)と会陰筋の律動的収縮によって尿道から体外へ射出される現象(イジャキュレーション)の二段階に分けられますが、この差がなくなり極致感も弱く、しかも射出力も低下している関係から若い頃に比べてオーガスムという悦びはそれほど強くはありません。

4-2.早朝勃起の消失は末梢血管の老化の兆し

勃起現象は陰茎海綿体に陰茎深動脈かららせん動脈を介して海綿体内の毛細血管網へと血流が海綿体内に入り込み、白膜下静脈叢から海綿体外に流出する血液を膨張した海綿体白膜が貫通静脈を強く圧迫して遮断してしまい。陰茎の硬度が増すのです。加齢によりこの白膜の面積が減少して硬さが維持できにくくなってしまうのです。

早朝勃起というのは、性的興奮時に起きる勃起とは異なり、夜間のレム睡眠時に副交感神経系が活性化され交感神経系よりも優位になります。内臓などの様々な臓器を刺激してくれるのです。陰茎もその刺激を受け勃起が起きます。レム睡眠時ですから、夢などをみていたり、寝言を云っていたり、寝返りをすることもあるでしょう。眠っている間は気が付かないでしょうが、明け方の最後のレム睡眠時に目覚めた時に、勃起していることに気付くのです。

札幌医大名誉教授で日本男性医学会理事長の熊本悦明氏は、「レム睡眠時の勃起は、生き物・男として非常に重要なのです。生き物・人間は、寝ているときに全機能が寝て休んでしまえば、死んでしまうので、夜の神経である副交感神経が定期的にアクセルを踏んで、内臓を刺激しているのです。丁度車がハイウエイを走行中に、何もしなかったら止まってしまうから、時々アクセルを踏み、止まらないようにするのと同様に、人間も、睡眠中レム睡眠時に副交感神経のアクセルが踏まれており、その時に腸が動き、夢をみたり、寝言も言うし、また寝返りもする。その時に、ペニスも内臓の一部として、腸と一緒に反応して自然に勃起している訳です」と語っています。

早朝勃起の消失、若しくは勃起力が落ちてきたと思われたら、血管系の老化を意味していますので心血管障害の初期症状と考え、医療相談をされることを先ずは勧めたいところです。

4-3.女性の性生理

45歳周辺からの更年期に卵巣の機能低下によりエストロゲン分泌は急激に減少します。この急激な減少に対し、脳にある視床下部(間脳)は卵巣に働きなさいと脳下垂体に指令をだして性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン:FSH)の分泌を促します。それに卵巣は応えることができません。今迄は視床下部と卵巣はお互いに反応しあって協調していたのです。視床下部の傍にある自律神経系は不協和音を奏でるのです。それが基で様々な不定愁訴を訴えるようになるのです。のぼせや熱感、発汗亢進、動悸などの血管運動神経系症状を呈します。これが更年期障害というものです。その他にも不安、不眠等の精神神経系症状、疲れや肩こり等の運動神経症状を訴えることもあります。これらは更年期の間にもたらされますが、その後、老年期に入ってもエストロゲン分泌は少ないままで続きます。8


その他にエストロゲンの分泌低下は様々な弊害をもたらします。先ず、腟に対しては萎縮、菲薄化をもたらします。腟の潤いがなくなってきます。充分な腟の潤いがなければ、その中でのセックスは性交痛を訴えることになります。性交痛は性反応を損ないますし、骨盤底筋群の老化によりオーガスムの時間も短縮し快感も減少していきます。

萎縮菲薄化した腟内は酸性度も低下しますので乳酸桿菌の減少と相俟って腟自浄作用が低下し異常細菌叢が形成され帯下感、掻痒感、感染性腟炎を引き起こしかねません。更に、骨盤底筋群の老化は尿失禁や頻尿、排尿時違和感等といった排尿障害を引き起こしたり、子宮下垂や子宮脱等にも及ぶことがあります。

肌の弾力性は失われ、艶やきめ細かさも失われていきます。悪玉のコレステロールが増えて、高脂血症等といった脂質代謝異常、さらには骨吸収も失われ、骨がスカスカになる骨粗鬆症にも見舞われることになります。脳内の血流の循環も悪くなっていきます。これらを維持していたのは女性ホルモンであるエストロゲンの為せる業だったのです。

4-4.高齢女性の性反応

マスターズ&ジョンションによりますと、腟内の潤滑化が遅くなり、腟の拡張力も低下し、エストロゲンの減少から、腟壁の萎縮、菲薄化に伴い襞も少なくなって、腟腔全体が萎縮した状態となります。オーガスム期が短くなり、消退期も早くなると指摘しています。若い女性ではオーガスムが近付くと腟の開口部から3分の1位に膨らみが生じてきますが、高齢になりますとそのオーガスム隆起の収縮回数も半減し、肛門括約筋の収縮も少なくなると云われています。

性的刺激によってクリトリスは膨張し、クリトリス亀頭は小陰唇の包皮の下に後退していきますが、大陰唇や小陰唇の脂肪組織の減退と弾力性が低下していますので、直接的な刺激には疼痛を伴うことがありますので注意が必要だと指摘しています。

加齢とエストロゲンの低下によって女性の生殖器は退行変性していきますので、充分に時間をかけた前戯が必要で、腟内の潤いを確認されてから受け入れるようにしなければなりません。

4-5.生殖器系と廃用萎縮の関係

廃用萎縮、という言葉があります。廃用症候群ともいい、動かさない筋肉などが萎縮し機能不全を引き起こすことなどを指します。生き物は使わない機能はなくしていこうとする働きがあります。寝たきりで長くいた場合、骨や筋肉が衰えてうまく動かせなくなります。このことを廃用筋萎縮と呼んでいますが、廃用萎縮は健康な人にもおきるのですが、高齢になることによって無駄なものをできるだけ排除しようとする機能です。

勃起が不十分だから、性交痛があるからと言って、セックスから遠ざかると、その機能は益々衰えて使用不能に陥ってしまうのです。性機能低下を感じ始めたらお互いの努力で、勃起力をたかめたり、腟内の潤滑を充分に促すような手助けをすればよいのです。その努力がお互いの連帯感を増し歓びも大きなものとなります。お互いの絆が強く結ばれていくのです。いつまでも若々しく保つことができるのです。

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